宮崎県高千穂峡に、あまてらす鉄道という人気の観光スポットがある。往復 2.5km の線路を、自然を感じながらゆっくり走り、かつて東洋一高いといわれた高千穂鉄橋からの眺めを堪能出来るスーパーカートだ。しかしこの鉄道会社には悲しい歴史があった。
国鉄時代の高千穂鉄道は、清流五ヶ瀬川に沿って延岡市―高千穂町までの全長 50km を、19駅で停車しながら 1時間半かけてゆっくり走っていた。
一時廃止対象路線となるが、1989年第 3セクターが国鉄から運行を引き継いだ。しかし年間 7000万円の赤字という苦しい経営が続き、再び廃線の危機が訪れていた。
そして運命の 2005年、宮崎県を襲った台風 14号により五ヶ瀬川が氾濫した。高千穂鉄道の被害総額は約 26億円、小さな鉄道会社が払える金額ではない。
廃線へと向かう流れの中、住民たちが立ち上がる。チャリティライブや大掃除、住民たちの集い等様々なイベントを行い、もちろん県や市には何度も陳情に行き、橋の修復を願い出た。
しかし陳情は認められず、高千穂鉄道は経営を断念。職員 40名は全員解雇。国鉄時代から 70 年間続いた高千穂鉄道は消滅した。
19 個あった駅でただ一つ残ったのが高千穂駅。廃線となった 2008年にこの駅を借り受け、ある会社が立ち上がる。始めは手押しの木製トロッコを押しての営業、その後エンジン付きに改良、座席数を増やしていき、ついには 3,500万円をかけて 30人乗りのグランド・スーパーカートを導入した。
そしてついに平成 27年度黒字に転じる。ホームは人で溢れ、平成 29年度には来場者数 2,600人→43,000人まで増加した。
職員の表情は皆明るく、積極的に自分たちから話しかけてくる。ハイシーズン期には、オープン前から 100人の行列が出来るという。
ポリシーは、「補助金を受け取らない」こと。補助金を受け取ると、お金だけではなく口もついてくるので、自分たちのしたい事ができない、という理由からである。
取材時、宮崎 TVの取材も同時に入っていたため、アナウンサーに話を聞いたところ、ここは人気のスポットで、何度も放送されているという。
あまてらす鉄道の今後の発展を願わずにはいられない。
■ コンピュータ・ユニオン ソフトウェアセクション機関紙 ACCSESS 2020年3月 No.389 より