裁量労働制と聞いて最初に思い出すのは、働き方改革に盛り込まれる予定だった対象から外れたというニュースではないでしょうか。
そもそも裁量労働制とはどんな制度なのかというと、要するに労働者自身が労働時間についての裁量を持っているという制度です。何時に出勤して、何時に退勤しても良いのですから、午前中に家事育児をして午後から出勤して仕事をしても良いのです。お子さんを抱えるお母さんや、介護が必要な親と同居している人も、自分で労働時間を調整しながら家庭と仕事を両立できるということですね。そういった背景から、柔軟な働き方ができるという働き方改革の目玉とされていました。
裁量労働制で働く人は、そうでない人よりも労働時間が短くなるとのデータも示されていましたが、その後裁量労働制で働く人に「通常の1日の労働時間」を聞いたのに対して、一般的な労働者には「1ヶ月で最も多い場合の残業時間」を聞いたなど、データの不備が見つかり見送りになりました。
裁量労働制では、そもそも残業時間という考え方がありません。そのため、労働時間が増加しても残業代を支払う必要がなく、同じ給与で長時間の労働をさせることにつながるのではないかと懸念されていました。
ひとつ注意が必要なのは、裁量労働制でも深夜の割増賃金と休日の割増賃金は支払う必要がある点です。
また、誰でも裁量労働制の対象になるわけではないということにも注意が必要で、大きく分類して2種類に分かれます。一つは企画業務型裁量労働制、もう一つは専門業務型裁量労働制と呼ばれます。企画業務型は、事業の運営に関わる企画・立案・調査分析などの業務をする場合に適用できます。専門業務型は、その名の通り専門的な業務をする場合に適用できます。私達に関連する項目として、情報処理システムの分析・設計という業務はこの中に含まれています。少し前に、NHKの女性記者の過労死が話題になりましたが、記事の取材・編集という業務もこの専門業務型に含まれます。
厚生労働省の調査(平成29年)では、専門業務型を導入する企業の割合は2.5%、企画業務型裁量労働制については1.0%となっており、あまり浸透していないという状況です。ですが、情報通信業に限って見れば、専門業務型を導入する企業は26.6%、企画業務型裁量労働制については3.5%となっており、他の産業と比べて、突出した数字になっています。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/17/dl/gaiyou01.pdf
この数字は、導入している企業の割合であって該当する労働者の割合ではないので注意が必要ではありますが、専門業務型の対象なのは「情報処理システムの分析・設計」です。実装・テストなどは含まれません。
また、出勤・退勤時間を自分で決められる裁量がある必要があります。しかし、経験上、ほとんどの現場はそうではありません。
果たして導入している企業のうち、どの程度がこの制度を正しく利用しているのかは疑問が残ります。
■ コンピュータ・ユニオン ソフトウェアセクション機関紙 ACCSESS 2018年11月 No.373 より