2023年8月9日(水)に78回目の長崎原爆の日を迎えた。前日の8月8日(火)にMIC(日本マスコミ文化情報労組会議)と長崎マスコミ・文化共闘会議主催による「2023 MIC長崎フォーラム」が、コロナ収束に伴い、リアル会場とオンラインの併用で開催された。
今回は「継承の道標といまできることを考える」についての各種取組みについて発表された。
長崎における被爆の語り部達の平均年齢も85.1歳を迎え、その人数も減少の一途となっている。また、語り部たちも幼児期に被爆した方々が中心となり、記憶も定かではない。長崎市と原爆資料館は、家族や親族に語り部がいる 大学生、高校生を中心に家族交流証言者制度を策定し、 語り部の継承を行い、原爆による被爆の実相を伝えていく 取組みを平成26年から開始した。
【取組み】
「幼少期に被爆した語り部と語り継ぎ役による二人三役の被爆の講話」と「家族交流証言者の方の講話」が発表さ れた。
・ケース1(講話と語り継ぎ)
語り部: 田中安次郎さん(被爆者)
語り継ぎ: 林田光弘さん (長崎大学 核兵器廃絶研究センター)
安次郎さんは、3歳の時、浦上地区付近にて被爆。その後、難聴や皮膚のただれに悩んだ。小学校時代に重度の被爆をした級友がABCC(原爆調査委員会)に連行され、被爆状況を調査された記憶を語った。
語り継ぎ:林田光弘さん
民間人を傷つけるのは戦争法上違反になる。ABCCは田中さんの級友に調査のみならず、治療を施す必要があった。また、政府からの復興費用はほとんどが長崎市内の 復興のみにあてられ、被爆地の浦上地区にあてられなかった。また。原爆投下の責任の所在も不明確で「皆が起こ した戦争だから」にされ現在に至っているとのことを補足。
・ケース2(家族交流証言者)
語り部: 伊達木信子さん(93歳) 池田道明さん(84歳)
交流証言者: 中島麗奈さん(大学生) 松山咲さん(高校生)
それぞれの語り継いだ語り部の被爆体験、およびその 語継ぎの講話のほか、現在の活動状況も発表された。そ の内容は、ピーズボードに乗船して、同乗した海外の人々 への講話と高校生平和一万人活動と国連への署名の提 出などが発表された。
【所感】
人はいつ価値観をかえるのだろうか。アメリカ人の多くは、原爆の投下により、早期戦争終結に有効であったと考 えているようだ。広島や長崎の原爆資料館を訪れたとき、 その価値観を変えている光景をよく目にする。平和で楽し かった日常。大好きだった家族や友達。一瞬の閃光によっ て、そのすべてを破壊され不幸のどん底に叩き落される情 景がリアルに体験できるからだ。語り継ぎの内容を視聴 し、少し不安になった。「百聞は一見にしかず」と言ったら失 礼かもしれないが継承者たちの講話にリアル感がないの だ。近い将来、最後の被爆者が亡くなったことを報じられる 日が来るだろう。そして、被爆体験も歴史の一部になる。救 われたのは、語り部の池田道明さんの語り継ぎに「家族や 友達の痛みをわかってあげなさい。それが平和の第一歩 だ」。3月に他界された活動家の坂本龍一氏が残した言葉 「戦争は外交の失敗」につながると感じた。
■ コンピュータ・ユニオン ソフトウェアセクション機関紙 ACCSESS 2023年9月 No.431 より